
ぼくがはじめて見送った人は、ごはんを食べるのが無茶苦茶好きな人だった。がんになって、病院で胃を全摘出して、施設に帰ってきた。「あんぱん食べたい」「食べたいよなあ、けど食べられへんのや」何度やりとりしたかわからない。見送りの日は、いい顔をしてた。「がんばったなあ、向こうで好きなだけあんぱん食べられるなあ」と返した。
大学では経済を学んでたし、福祉のことは何も知らなかったんだ。最初のうちは、利用者さんとアホな話をして「今日も楽しかったー」で終わってた。そんなぼくがちゃんと働いていけるように、厳しいことを言ってくれた人がいた。人の生活に寄り添う仕事だと教えてくれた人。この仕事に向き合いたいと思わせてくれた人。見送る日、ご家族にお礼を伝えた。「めちゃくちゃ感謝してます、すごい成長させていただきました」
人はいろいろな思いを抱えてなくなっていく。見送った人たちは、みんなゆたかな顔をしてた。ぼくら生活支援員が関われるのは、人生のほんの数パーセント。だけど、そのわずかな時間がゆたかな表情をつくる。関わることができてよかった。笑ったり、怒ったり、一つひとつの関わりを思い出しながら、見送る。
ここまで11年働いてきた。ここからの11年は、違うものになると思う。最近になって、ようやく自分のことを職員さんや利用者さんに話せるようになってきた。納得いくようになってきた気がする。おもしろいっすわ、この仕事はね。